酒類業フォーラムワイナリー視察ツアーレポート

豊倉 一真 


■土壌の劣位に打ち勝ってきたストーリーが魅力
 勝沼ワインの歴史は日本ワインの歴史そのものである。明治時代から始まる1世紀以上に渡るわが国のワイン造りのチャレンジ精神を各ワイナリーはそれぞれの立場から継承し、高めてきた。そうした努力が日の目を見始めていることを今回のツアーでは改めて認識することができた。

 「よいワインはよいブドウからつくられる。」素人目には当然と感じるであろうこのルールを貫徹することが日本におけるワイン造りの最大のテーマだ。発酵によってアルコールに変化する糖分はワインにとっての最重要事項だが、わが国は収穫前から収穫期にかけての降雨量の多さ故、糖度が上がらない。収穫前日の雨はそれだけでブドウの糖度を1%も低くするという。これを克服するためのパイオニア的な試みが、勝沼ブランドを確立してきた要因となっているのは疑いないところである。

 訪問したどのワイナリーにおいても、土壌に適した品種の追求、パフォーマンスを引き出す製法の導入に心血を注いでいた。良質で個性的なワインを創り出すことで、従来からの甘味ぶどう酒とはもちろん、他の国産ワインとの差別化が図られている。ツアーの締めくくりには懇親会を兼ねて、多くのワインを試飲させて頂いたが、バラエティの豊富さには目を見張るものがあった。ワインとは選ぶ楽しみがあるお酒の種類である。その選択範囲に広がりと奥行きあるものを提供できることは、楽しみを広げることになろう。

 特区などの法制度変更も追い風だ。自社名義での農地借入も可能になる基盤ができ、生食兼用ではなく、ワイン醸造を第一の目的とする質の高い栽培を可能にしている。勝沼でのブドウ畑の光景は、幼い頃の記憶に残っているブドウ狩りの風景である棚づくりではなく、垣根作りの畑が多く広がる。そこにはワイン生産地としての風格が備わっていた。現地で聞く造り手の声は、真実のストーリーとして心に響いてくる。自ずと期待はますます高まる印象が強く残る機会となった。

■より一層の消費者の期待に応えて欲しい
 昨今の勝沼ワインの市場の評価は、こうしたたゆまぬワイン造りに対する情熱と実行力、また直接間接にそれに触れた者に支えられ、ワイン愛好家に受容されつつあるのであろう。しかしながら、これから以降を睨んだとき、一般消費者に向けより広く、そして継続的に魅力を伝えていくのであれば、さらに意図的な、選択のしやすいアプローチを検討することも必要になってこよう。期待とともに、そうした点も頭をよぎる。

 たとえば、愛好度を落とした層に向けた商品ライン。「勝沼らしいワインの最低ランクは1500円レベル。正直デイリーワインとしては薦めきれない価格」とは、あるワイン専門店の言である。ワインの日常定着化が言われているが、だとすれば食卓上の代替品は第三世界の安価なワインであり、低アルコール酒、発泡酒である。コスト低減は日本のワイン業界永遠の課題でもあるが、支持層拡大のための戦略的商品としては必要なアイテムであることを意識しておきたいところでもある。「国産ワインの飲み手には、輸入ワインを勧めやすいが、その逆は難しい」傾向は市場には厳然と存在する。

 また「勝沼のワインとは?に対して応える象徴」も渇望されるところであろう。現在甲州種を中心に試行錯誤の過程にあるが、やはり知る人にとっての意外性が評価の軸になっている感は否めない。この商品はこうしたところが違う、○○年のモノはこんな出来、といった飲み手への最前線でも説明可能な「スタンダード」となる軸があると売り甲斐も出てくるのではないだろうか。個々のワイナリーの努力とも相乗効果が期待できる。組合主導での連係した取組でも可能であろう。

 ツアー参加後垣間見た「やまなしの新酒ワインまつり」の盛況ぶりは、消費者のワインに対する期待の高まりの証でもある。確信を持ってこのチャンスを的確に捉えて頂きたい、本心からの期待である。