| 2008年2月18〜19日の2日間、酒類業フォーラムのツアーで奥能登の酒蔵10箇所を訪問する機会に恵まれた。以下、3つの蔵についてレポートするが、選択は筆者の独断と偏見によるものであり、訪問した蔵の全てから酒づくりへの熱い思いが感じられ、いずれも勝るとも劣らないものがあったことを付記しておく。
能登丼にびっくり
羽田から1時間足らずのフライトで能登空港に降り立った私たち一行を乗せたバスは、珠洲の「灯りの宿まつだ荘」に向った。「腹が減っては戦ができぬ」の格言どおり、まずは昼食である。「いしる風味いためし丼」は、店主謹製の「いしる」で作った塩辛がベースの野菜のあんかけ丼である。迂闊にも「能登丼」について不勉強だった私は、海鮮丼のようなものを想定していたから、これは意表を突かれた。能登丼は、能登の食材と能登の食器を使い、奥能登地域内で調理して提供される丼で、各店が工夫をこらしている。「いしる風味いためし丼」は、胃にやさしく、血液がサラサラになるような印象。夜の懇親会は新鮮な能登の魚貝類が出るに違いないから、昼は趣向を変えようという、今回のツアーをコーディネートしてくださった数馬嘉雄氏(数馬酒造代表取締役)のご配慮に感謝したい。
もうひとつの酒蔵ツアー
実は、私たちのツアー前日に、永年の友人たちが数馬酒造はじめ能登の酒蔵を訪れている。もう7回目になろうか。毎年仕込みの時期に蔵を訪問して、県外には出にくい酒を入手している酒の愛好家集団である。彼らの蔵めぐりが始まったきっかけは、私が石川県内のある酒蔵を紹介したことに始まる。メンバーには酒販店の後継者や飲食店の経営者もおり、それぞれ直接取引した能登の地酒で差別化を図っている。幹事に言わせれば、私に紹介されるまで、蔵を見学できるなど想像もつかなかったそうで、今でこそ多くの消費者が酒蔵を見学できることを知っているが、さらにアピールすることで、清酒の潜在需要を喚起できるのではないだろうか。
若き後継者に期待
最初に訪問した櫻田酒造は、珠洲市蛸島に所在する能登酒造組合の中でも最北端の酒蔵である。今年で創業94年目を迎え、杜氏は25歳の後継者(4代目)が勤めている。本醸造は99%が地元珠洲市で消費されるという「初桜」シリーズのほか、創業時の銘柄「大慶」を復活した純米酒は、杜氏が自ら飲みたい味をイメージして造っているという。少人数で酒造りをするため、仕込みは材料をリフトで2階へ上げ、1階のタンクに投げ込むという手法を採用している。
初しぼりが訪問直後の2月21日のため、新酒を味わうことができなかったのが心残りである。後継者のブログによれば『今年もいつもの通りの私の酒の味でした』とのことであり、若き後継者の酒造りへの自信がみなぎっていた。「まだ幼い息子に継いでもらいたいが、今の石高では無理。頑張って4倍は造りたい!」という意気込みにエールを送りたい。
新しい酒づくりに取り組む
輪島の中島酒造店は、140年の伝統を誇る蔵であるが、他の酒蔵に先駆けて新しい酒造りに取り組み、赤色清酒酵母使用した桃色にごり「花おぼろ」が大ヒットした。
赤色清酒酵母は、他の酵母よりも極端に繁殖力が弱く、酒づくりには気をつかうという。たった1滴他のもろみが混入しただけでも、赤色酵母の繁殖が止まってしまうそうである。昨年の能登半島沖地震で蔵が全壊したため、今年は数馬酒造に場所を借りて、仕込み水を持ち込んでの酒づくりとなった。蔵どうしのネットワークで、震災を克服して酒づくりができたことは特筆に値するが、桃色にごりの仕込みは、3月に完成予定の新しい蔵を待たねばならないのが残念である。
代表の中島浩司氏とは、「もうひとつの酒蔵ツアー」の幹事(金沢市在住、羽咋郡志賀町出身)が懇意にさせていただいている関係で、我が家にも毎年「末廣大吟醸」などが届く。銘柄ごとの特徴が明確で、それぞれが個性のある味わいを主張していると感じている。今回初めてお目にかかれて、酒蔵復興と仕込みに向けた熱き思いに触れることができたのは幸甚であった。
しぼりたて原酒に酔う
今回のツアーのフィナーレは、輪島市門前の中野酒造である。能登半島沖地震の被害が最も大きかった地区にあり、今年の仕込みは限られた量になった。「しぼりたて原酒」を利き酒すると、この時期しか味わうことができないという、芳醇な香りと濃厚な飲み口に感動した。
「利き酒」どころか、しっかりと飲んでしまいたい気分だったが、帰京後は講師の仕事が待っているので、そうはいかないのが悔しい。伊藤嘉基当フォーラム専務理事の口利きで、特別に300ml詰めをわけてもらえたことに感謝したい。自宅の晩酌では、輪島の朝市で仕入れたわさびのりやいしる仕込みの塩辛によく合った。原酒は度数が高いから量は飲めないが、普通酒は「毎日飲んでも飽きない味」のような気がする。町外で入手しにくいのが残念である。
再び能登清酒に
今回のツアーをコーディネートし、1日目は「添乗員」を勤められ、2日目も忙しい合間を縫って見送ってくださった数馬氏には、感謝の念に絶えない。“能登でなければ、元気が出ない”「米を磨き、蔵を洗う。心を磨き、酒を醸す」の信条どおり、ますますのご活躍を期待したい。さらに、最も多忙な時期にもかかわらず、私たちを受け入れてくださった酒蔵の皆さまにも厚くお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
最後に、近く「もうひとつの酒蔵ツアー」の幹事が上京し、都内の居酒屋で「能登清酒を味わう会」を催すことを付記しておきたい。今回のツアーで訪問した蔵の酒をふんだんに持ち込むというから大いに期待しているが、このように酒類業フォーラム以外にも能登清酒の応援団が存在することを心強く思う。 |