能登の清酒蔵元を訪ねて

西場 友彦


 2月18日、19日の1泊2日で能登の清酒蔵元を訪ねた。昨年3月に発生した能登半島地震からまもなく1年経とうとしている時期での訪問であったが、地震で蔵が全壊してしまった造り酒屋のひとつは、同じ組合の酒造会社の設備、人手を貸して酒造りの再開を果たしていた。震災により被害にあった酒造会社にとって失ったものは大きいが、復興に向けて力強く大きな一歩を踏み出していた。

 このような中での訪問であったが、今回は、蔵元訪問の意義について、酒販店が酒蔵を訪問する場合と、酒造蔵元が蔵元訪問を受け入れる場合の両面から考えてみたい。

1.酒販店にとって蔵元訪問は商売の源
 商売人は、自分でつくった商品を販売するなら、その商品の良さを十分知っているため、お客様へ自信をもってすすめることができる。しかしながら、酒販店は自分がつくったものを扱う商売ではない。だからこそ、酒販店経営者は、顧客にとって良い商品を自ら探し出し、仕入に力を入れる必要がある。
 顧客をどのように獲得したらよいか悩んでいる酒販店の経営者には、今一度、自分が買い物をするときに、どのような基準で商品を選ぶのか考えてもらいたい。人が買い物する際に商品を選ぶ基準は、その商品を知っているかどうかであるはずである。つまり、お酒であれば、「以前、飲んだことがあり、おいしかったから」という基準で選ぶことが多い。このように自分の過去の経験から、もう一度商品を買ってみようと思うのである。したがって、顧客に商品をすすめたいのであれば、その商品を試飲してもらうことが最も効果的であるということになる。さらに、実際に顧客を蔵元に連れて行って、杜氏に何十年何百年とかけてつくってきたその清酒づくりを語ってもらい、その思いを聞き、語っている姿、造っている姿を見てもらうことができれば、多くのファンをつくることが可能となる。
 次に、自分が経験したことのない商品を買うときはどのような場合が多いのだろうか。多くの人は、「これ、良かったよ」「これ、おいしかったよ」と、自分のまわりにいる家族や友人から聞いて、買ってみようと思うのではないだろうか。つまり、今まで買ったことがない商品の場合、多くの人は周りにいる人の影響をうけて、商品を選ぶことが多いということが言える。
 顧客に実際に行って見て経験してもらうことが最も効果的であるが、すべての顧客に対して、このように対応できないことも事実である。そうであれば、店舗の経営者が自分で実際に経験してみて、感じたことを顧客に語るべきではないのか。
 つまり、商売というのは、顧客にとって良いものを店主自身が探し出し、経験し、感じたことを顧客に伝えることからはじまるのである。酒販店は酒造会社が造ったものを扱う商売だからこそ、蔵元を訪問し、経営者自ら顧客にとって良いものを探し出す必要がある。
 以上の通り、酒販店にとって蔵元訪問は商売の源泉をつかむ第一歩である。現在、全国的に有名な銘柄を取引している酒販店は、まだ、無名ブランドであったうちに探し出して有名ブランドに育て上げている。こうした有名ブランドを取り扱うのはなかなか困難であるが、まだ有名でないものでもおいしいものは全国にたくさんある。ぜひとも多くの酒蔵を訪問して、自ら顧客にとって良いものを探し出してもらいたい。

2.造り酒屋にとって蔵元見学受け入れは、ファン獲得の最大のチャンス
 前述したとおり、杜氏が何十年何百年とかけてつくってきたその清酒づくりの思いを蔵元見学者に語ることは、見学者が自社の酒の生涯のファンとなり、蔵元見学者が酒販店である場合にはさらに多くのファンを獲得できる可能性を秘めている。
 今回のツアーには、全国各地から参加した地域有力酒販店、マスコミ関係(業界紙)の方も参加されている。各蔵元にとっては、地域有力酒販店に自社の酒を取り扱っていただくチャンスであり、業界紙に掲載してもらうことで、読者である酒販店に自社商品のPRをする機会となる。
 今回のような蔵元ツアーは、酒造会社にとって顧客獲得のチャンスではあるが、酒造会社は、蔵元見学受け入れにあたり、次のような心構えや受け入れ態勢をつくっておく必要があると思われる。

図表1.蔵元見学受け入れの主なポイント

項目 蔵元見学受け入れの主なポイント
スタッフの心構え・接客 ・蔵元見学者は、一生涯のお客様を獲得するチャンスであることをスタッフが 十分理解する。
・蔵元見学者が満足するお出迎えをするため、元気で笑顔で気持ちの良い挨拶をする。
清掃 ・店頭の清掃をする。
・蔵内、店内の清掃をする。
・トイレの清掃をする。
商品説明 ・酒造りの工程マップの設置(工程に応じた自社独自のポイントの説明をする)
・商品ごとの味わいの特徴だけでなく、
  自社の酒造りの思い(こういう人に飲んでもらいたい、こういう場面で飲んでもらいたい)を説明する。
・試飲スペースの設置(無料試飲コーナーだけでなく、有料試飲コーナーがあっても良い)

商品販売
(土産品)

・360mlや180mlなどの小容量の土産品専用商品の販売。
・蔵でしか買うことができない蔵元限定商品の販売。
・数種類の商品を味わえる飲み比べセットの販売。
・ご自宅お届けサービス
・清酒以外の商品の取り扱い(酒粕や酒を使用してつくった食品、地元の名産品など)

 以上、蔵元見学の受け入れに必要なことを図表1にまとめてみた。他にも必要なポイントがあると思われるが、もっとも大切なことは、酒造会社にとって蔵元見学受け入れが自社の酒ファン獲得の最大のチャンスであることを肝に銘じなければならないことだと思われる。
 今回のツアーに参加された酒販店に聞いてみると、“能登のおいしいお酒があればぜひ取り扱ってみたい”と言う理由で参加している。遠方から足を運び、自店のお客様の満足のためおいしい酒を探しに来訪する意欲ある地域の有力酒販店で取り扱ってもらうチャンスはそうそうないはずである。
 来年以降に、このようなツアーが企画された場合には、全国の酒造組合関係者の方にはぜひとも積極的に受け入れ、顧客獲得のチャンスとしてもらいたい。