| 2月18日(月)・19日(火)の2日間で雪の奥能登を訪問した。能登杜氏で酒造りの盛んな地域イメージがあるが、私個人としては能登の酒自体の印象は薄い。こうした期待感と好奇心を持ちながら、10蔵を訪問した。
【2月18日】
能登空港に到着後、雪道をバスで走り、昼食に能登丼を食べた。能登丼は、能登の地域振興のために、飲食店が能登の食材を使ったオリジナルの丼。同じ丼は二つとない。食べたのは「いしり」といわれる能登名産の魚醤で味付けされたもので、地元産の岩海苔の味噌汁とも相性ピッタリ。能登の食文化を体感した。食の豊かさは酒造りの質の高さにもつながるため、大いに期待感を抱かせた。(写真 能登丼)
■若手杜氏の櫻田酒造
最初に訪問した酒蔵は、櫻田酒造である。若手杜氏が一生懸命に醸した酒という印象である。小規模な蔵で、建物も古い。蔵の中の設備には手作り感を感じさせるものだった。(写真 櫻田酒造)
■能登最大規模の宗玄酒造
2件目は宗玄酒造である。訪問した酒蔵の中では最大規模であった。経営理念が壁面に掲示されており、従業員が同じ価値観を持ち、同じ方向を向いて仕事ができるよう共有化がなされている。酒造りの過程も掲示されており、規模が大きいゆえの工夫がされている。酒蔵というより工場であるが、酒の保管庫も温度管理されており、物流センターも持っている。生産〜保管〜物流といった機能分化の中にも、酒造りに対する真摯な姿勢がうかがえた。
■元気一杯の女性杜氏の蔵 松波酒造
3軒目は松波酒造である。元気一杯の女性杜氏の蔵で、手作り感が伝わる。手間の掛かるフナ搾りを採用し、出来た酒粕も美味に感じる。ラベルの手貼りも行っており、伝統的な清酒づくりの過程を見ることができた。女性杜氏の発信するブログhttp://www.o-eyama.com/やペーパー等も面白い。
■自家精米の数馬酒造
4軒目は数馬酒造である。社長に今回の視察ツアーのコーディネーターをお願いした。大きな特長は自家精米を行っていたことである。酒造りは一に麹、二にもと(酒母)、三に造り(もろみ)と言われるが、良い麹を育てるには、精米の技術がものを言う。自家精米は、醸す酒の酒質の高さを物語る。また、1階にはショールーム的な店舗があった。12ヶ月頒布会用の「お酒とサカナのおいしい関係」というポスターが掲示されており、旬の魚と自社銘柄との相性が示されていた。能登の地場海産物と能登の酒という理想的な訴求方法である。なお、この蔵の「海の見える応接室」には、能登の風情が感じられた。(写真 数馬酒造 応接室)
■手作業で酒粕の袋詰め 鶴野酒造
5軒目は鶴野酒造である。手作業で酒粕の袋詰めを行っていた。季節柄、どの蔵も搾りの後の酒粕が目に付く。一様に手作業というところが、能登らしさを感じさせる。隣接した住宅では魚の開きが干してあり、能登の酒蔵と干し魚に妙なマッチングがあった。(写真 鶴野酒造 隣の干し魚)
■奥能登の酒蔵の結束力を感じさせた試飲会・交流会
1日目夜は、酒蔵の方々と試飲会・交流会があった。奥能登の酒蔵の方々は熱心で謙虚、向上心がある。我々診断士の試飲の感想にも熱心に目を通していた。グループとしてのまとまりや結束力の高さは、昨今の酒造組合では見られない。震災後の復興への意欲の高さが感じられる。また、独自の取り組みとして奥能登列車(能登の酒を列車内で楽しみながら2泊3日で能登訪問)も企画実施され、都会の消費者に対して徐々に能登の地域文化や酒文化が紹介されている。若い女性の参加が多いという。
【2月19日】
2日目朝は、輪島朝市からスタートした。雪、曇り、晴、雨と天候が頻繁に変化し、能登の気候風土の厳しさを体感した。最も寒い時期の平日でありながら、予想より観光客の人出が多い。輪島朝市の人気の高さがうかがえる。地元海産物や青果、海産加工品等が、売り子さんの威勢の良い呼び込みの声とともに売られている。3点500円等、まとめ買いを推奨し、微妙にお得感を強調するので、意思を強く持たなければ何かと買い込んでしまう。
■朝市通りの真ん中に位置する日吉酒造店
2日目1軒目は日吉酒造店である。朝市通りの真ん中に位置する好立地だ。勿論、店舗も構えているが、観光客を強力に吸引する仕掛けはあまりなかった。店頭で、季節商品の「しぼりたて原酒」の試飲販売を行っているが、新鮮さや裏手の醸造場で造られた酒であることの訴求が殆どない。一見普通の地元酒屋に見える。やはり、蔵見学の受け入れ体制の整備や蔵見学の訴求が観光客の興味を呼ぶだろう。しかし、いただいた酒粕は美味しかった。私の自宅では鮭の粕漬けに使ったが、焼き魚にすると外国産の安価な鮭がまろやで大変美味しくなった。酒粕も、食べ方提案をすれば、もっと販売拡大するように思う。甘酒だけが用途ではない。
■店頭看板が目立った清水酒造店
2軒目は清水酒造店である。朝市通りから徒歩5〜6分の場所にあった。店頭入り口には「酒造店紹介看板」があったが、輪島市内の酒造場は共通デザインの看板を設置している。紹介看板には、創業年や蔵の特長が和文と英文で表記されている。観光客の多い土地柄を活かした取り組みであるが、看板の共通性により注目度が高まる。また、建物には「能登誉 蔵元」という表示板があり、一見して蔵元であることが認知できる。店舗にも清潔感があった。パンフレット等の印刷物も自由に配布しており、観光客吸引に対する取り組みがなされていた。
■元気の良い女性経営者の白藤酒造店
3軒目は白藤酒造店である。元気の良い女性経営者がおられた。震災でも多大な被害を受けた蔵らしく、設備投資し、工場再建中であった。再建途中の真新しい木の香りを嗅ぎながら案内されたが、再建への並々ならぬ意欲を感じさせる。(写真 再建中の白藤酒造店)
■100石の小規模蔵 中島酒造店
4軒目は中島酒造店である。100石の小規模蔵である。この蔵も震災の被害が大きく、再建中であった。社長の個性が豊かで、社長自らが酒造りを行う。小規模・少量であることを誇りとした酒造りに対する哲学を感じさせる。(写真 中島酒造店)
■地元の酒を醸す中野酒造
最後は、中野酒造である。この蔵も工場再建中であった。地元消費分は、義理堅く造っていた。多くを語る社長ではないが、地元の酒という位置づけで、地域と酒造りを捉えている。小規模であるが、高い酒質をもつ蔵であった。(写真 建て直した中野酒造)
■個性豊かな「家業的ローカル企業」への転換を期待
この2日間の視察で印象に残ったことは、1.酒造業が家業であること、2.良い意味でのローカル性があり、無闇にトレンドを追わないこと、3.地域風土として、やや閉鎖的であること、である。
1と2は伝統として是非守っていただきたい。3に関しては、能登の食文化・地域文化の発信源として、地元酒蔵に中心的役割を担っていただきたい。輪島塗の細かな手作業の工程も見学したが、地域文化として、酒造りに通じるところがある。『手造り』『手作業』は、屋内で仕事をせざるを得ない長い冬の地域風土がもたらしたものであるように思う。こうした職人的気質は、素晴らしい地域文化である。
今後は、能登の地場産業と連携し、県外にも能登の素晴らしい食文化・地域文化を発信・紹介して欲しい。共感者を増やせば、自ずと新たな需要の発掘につながる。幸い後継者や若手のいる蔵元が多い。その上で、単なる家業ではなく、個性豊かな「家業的ローカル企業」への転換を期待したい。
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