奥能登蔵元視察レポート ・・能登の取組みに日本酒の明日を見る・・

竹山 芳絵


 雪の降る中、能登の酒蔵の訪問をしてきました。能登沖地震から1年。地震という自然災害に合われながらも、能登の土地で日本酒を大切に仕込む蔵元の方々の姿やお話は、非常に力強く感じるとともに、日本酒の魅力を再発見した気がします。
 本レポートでは、訪問で感じたことや印象に残ったことを中心にまとめさせていただきました。
仕込みの真っ盛りの忙しい中、快く訪問に応じて頂き、様々なお話をしてくださった能登の蔵元の方々に改めて感謝いたします。

1.酒を愛し、伝承したいという強い想い
 「地震で壁が崩れてきて・・。こことここは、建て直しました。」
 「地震後に井戸の水が枯れてしまいました。」
 上記は、訪問した酒蔵の方々の話の一部である。さも当たり前のようにさらっと話をされていたが、今の状況に至るまでには、資金面も含め大変な苦労をされたと推測できる。
 今回、能登の蔵元訪問に伺い強く感じたのは、災害をバネにしながらも伝統を守りよい酒を顧客に届け続けたいという強い情熱である。地震をきっかけにネットワークが強まり、お互いのよさを活かしながら、自分の蔵の酒を、そして能登の酒を伝承していきたい、こうした強い思いが様々な活動に結びついているのではないかと感じる。

2.特徴を伝承する技
 「お酒は子供みたいなものだから・・・」40年のキャリアをもつ杜氏がポツリとつぶやいた言葉だ。毎年、毎日の変化を見抜き、気を配りながら造られているからこそ、実現できるものがあると気づいた瞬間である。
 日本酒は、米、水、気候など変化する自然の中で造られている。しかし、ワインのように年度よる味の変化は少なく、「蔵の特徴」を伝承し続けている。
 恥ずかしながら、これまで、いつ飲んでも、同じ特徴の味が楽しめることに疑問を感じたり、伝承し続けるための努力という面に意識を向けることがなかった。今回、様々な酒蔵の造りや杜氏の方々の話を伺い、自然の中の微妙な変化を読み取り造りに反映させるという、杜氏の技を改めて感じた。
 当たり前にあることを当たり前にし続けることは思った以上に難しい。これこそ、日本の伝統と文化を伝承していくということなのかもしれない。

3.新しい飲み手を発掘する共同の取組み
 能登の酒蔵では、「日本酒」をベースにしつつ、新しい飲み手を発掘する共同の取組みで、蔵の活性化を後押ししている。
 例えば、上野から出発する「能登地酒列車」では、地酒好きの顧客に能登杜氏からの話を聞かせるなどして、能登の日本酒をPRしている。また、中島酒造のももいろにごり酒は、能登のイベントの目玉商品を作ろうという取組みから生まれた。ももいろにごり酒は、全国でも4社しか製品化できていないという製造が難しい非常に生命力の弱い赤色酵母を使った商品である。空港会社の雑誌で紹介されたことで、一気に広がり、女性を中心に人気商品となったものである。当時は4蔵が共同参加して製造したが、その後中島酒造が他の蔵の了解を受けて引き続き製造を行っている。今年は、蔵の建て替えのため製造できていないが、忘れられてしまう前に造りを再開したいと話していた。
 日本酒の市場拡大、販路拡大を考えたとき、「これまで日本酒になじみがなかった人」をいかにアプローチするのかは、大きな課題であると考えている。しかし、市場が縮小し各々の蔵単体の商品開発、市場開拓の体力は徐々に低下する傾向にあると考えられる。そのため、能登のような「共同の取組み」でコラボレーションを取りながらの活動は、様々な可能性を秘めているのではないだろうか。

4.統一ラベルを創る活動
 今回の蔵元訪問のもうひとつの目玉は、統一ラベルを作成するための情報交換である。統一ラベル作成に向けて、参加メンバーと蔵元による、清酒サンプルと裏ラベルの表示のマッチング審査を行った。審査会場では、酒蔵のメンバーも他社の酒を飲み比べ、相互に味の比較をしながら味わい、料理との相性などの検証を行った。この会場で蔵元の方が、「これまで自分たちの考えで味わいや料理との相性などを勝手に判断していた。多くの方が本当にそう感じるのか、忌憚ない意見を下さい。」と話していたのが印象に残る。
 近年飲酒運転防止が強化され、試飲の機会が減少している。こうした状況は、これまでの清酒業界の取組みを大きく変える必要性が増している。

 これまで、清酒製造業は「生産志向」つまり、良い酒を造れば売れるという考え方が軸にあったように感じる。しかし、「良い酒を造る」ことと「売れる」ことは、必ずしもイコールではない。
品質や味を良くすることは重要であるし、ベースとなる。「このお酒はおいしいね」「とてもきれいなお酒だよね」「丁寧に造られている」といった良く聞く顧客の感想の原点は、「良い酒を造っている」ことである。しかし、「飲まなければ分からない」では、消費を伸ばすことはできない。
 お酒は嗜好品、つまり、その人の好みによって味わい楽しむ商品である。この「その人の好み」というのが曲者で、お酒でよく使われる甘い辛いという感覚でさえ基準が合わない。飲み慣れている人と飲みなれていない人では、味の感覚も随分違う。嗜好品を選ぶには、自分の基準を知ること、選ぶ場合、他との違いが明確になることが必要である。
 蔵元が独自でつけた味わいや料理の相性は、あくまでも「飲みなれている」人の感覚である。また、必ずしも他の商品との違いを意識してつけられたものではないため、独自のラベル表示は、「分かるようで分からない」表示だったのかもしれないと改めて感じた。それを統一していくことは、難しいことともいえるが、顧客が自分の基準を明確にしやすく、他との違いが明確になる面でも今後日本酒を販売する上でもモデルとなるのではないだろうか。

5.能登の土地とお酒
 日本酒は、土地と共に育つ飲み物である。そのため、味を想像するとき、その地域の食文化や気候、人々の気質や生活とは、切り離せない。能登を訪問して印象に残ったのは、雪、海と山の自然と食、そして、強さとやさしさを持つ土地の方々である。また、蔵元では、神棚や自然と調和した建物も印象深く残っている。
 能登のお酒をPRするとしたら、と各蔵で伺うと、多くの蔵が「やさしい口当たりといつまでも、そのままでも飽きないおいしさ」という表現を使っていた。実際に飲んでみると、どのお酒も非常に飲みやすく、つまみがなくても飲んでしまうようなやさしい口当たりを感じる。
 こうしたお酒を生み出す背景は、一様ではない。しかし、能登の土地柄、自然、そこに住む人々の重い、そして各蔵の伝統は、能登のお酒には現れているように感じた。
 今後、他県へ能登のお酒を認知していくには、こうした「能登独自のよさ」を再発見し、他県との違いとしてPRすることも必要かもしれない。