「泡盛というブランドを考える」

1.元気な泡盛の蔵元
 6月末の3日間、酒類業フォーラムの研修旅行「琉球泡盛を訪ねて」で、10社の泡盛蔵元を訪問した。零細な蔵から比較的大手の蔵までそれぞれの雰囲気を味わうと共に、他の焼酎とは異なる泡盛の製法を目で確認することが出来た。原料はタイ米、黒麹菌使用、全麹仕込みが泡盛の製法の特徴である。
 今回の蔵元訪問で感じたのは、どの蔵も大変元気で意欲的なことである。現状の設備で可能な泡盛造りを進める蔵、蔵を増設して増産体制に取組む蔵、古酒の貯蔵方法にこだわる蔵、泡盛の副産物であるもろみ酢で新たな市場を開拓する蔵等々、それぞれ違いはあるが、元気でいきいきとしているところが共通点である。蔵元のお話を聞いても、海外進出への取組、蔵での品質管理体制への取組等、意欲的な点が印象に残っている。泡盛の消費は、県内が7割、県外が3割で、県外消費の伸張が蔵元を元気にしている大きな要因である。

2.焼酎ブームの中の泡盛
 数年前より焼酎ブームが続いている。第三次焼酎ブームで、一昨年課税数量で焼酎が清酒を追い抜いた。第一次の甲類焼酎、第二次の麦焼酎に続いて、今回は芋焼酎のブームである。減圧蒸留はクセの少ない飲みやすい焼酎を造り、乙類焼酎の市場拡大に大きな効果を上げた。今回の焼酎ブームでは、クセのある常圧蒸留の芋焼酎が好まれたりとより消費者の志向は多様化している。そんな芋焼酎が牽引するブームの中で、黒糖焼酎、泡盛等のより地域性の高い、個性的な焼酎に注目が集まっている。芋焼酎ブームが今まで知られてなかった他の本格焼酎にも派生している構造を生み出しているのである。
 
3.地域ブランドとしての泡盛
 本格焼酎のブームの中で見落としてはいけないのが、地域との関連性である。芋焼酎でいえば、鹿児島県の芋焼酎という地域と密着した商品であるという点である。地酒ブームを先導した新潟の酒に代表されるように、清酒にも地域との関連性が強いが、本格焼酎はより地域との密着性が高い。中でも泡盛は、沖縄という地域の酒であるという地域イメージが他の本格焼酎よりも強いといえる。泡盛=沖縄というイメージである。本格焼酎のブームの中で、泡盛が注目されてきたという点と、沖縄という地域が全国で、特に都市圏で認知をされ、注目を集めている背景の中で、泡盛ブームも広がっているという事実である。首都圏では、街の活性化に沖縄という題材を取り入れたり、イベントを取り入れたりしている地区もある。確実に沖縄という地域、文化が都市圏で浸透している。特に、沖縄の食が、沖縄料理店の進出を契機に浸透してきた点が大きい。沖縄の食と共に、泡盛が飲まれるようになってきたという経緯である。沖縄料理店を基点とした情報発信が泡盛浸透の大きな推進力となっている。
 泡盛が、沖縄という地域イメージと密接に関連した地域ブランドである点を今後のブランド展開で、きっちりと押さえておくことが必要である。地域イメージとは、沖縄の豊かな自然、歴史、文化等の特異性であろう。沖縄という地域・歴史・文化が泡盛を育んできたという視点を外さないことが第一である。

4.各蔵の個性の創造
 今回、10の蔵元を訪問したが、それぞれが自社の特徴作り(差別化)に取組んでいる。忠孝酒造(株)は、泡盛の最大の特徴は古酒文化であるが、泡盛を貯蔵する甕を独自で作っている唯一の蔵元である。土に含まれる成分が甕より溶け出し、泡盛の熟成を促進させる。独自の甕により泡盛を貯蔵するという貯蔵方法に特徴を持った蔵元である。(資)比嘉酒造は、酒造場内にギャラリーを併設し、泡盛に関する資料を見学することが出来る。宮里酒造所は、幻の銘酒「春雨」を復活させ、年間僅かな製造量であるが酒質に大変こだわった蔵元である。瑞泉酒造は、琉球王朝時代の首里で創業し古い歴史を誇る。古酒をメインとし、最大の貯蔵料を誇る蔵元である。咲元酒造(資)は、低温発酵で時間をかけたモロミ造りにより雑味のない飲みあきしない酒質に特徴がある。瑞穂酒造(株)は、県内随一の規模を誇る地下タンクを持ち、年間を通して一定の温度で貯蔵することが出来る。(株)石川酒造場は、モロミを甕で発酵させる甕仕込みに特徴を持っている。また、甕貯蔵にもこだわりをみせている。沖縄県酒造協同組合は、組合員が生産する良質な原酒のみを集めて、これを長期貯蔵し良質の古酒に仕上げて県外に安定的に販売している。原料米等の共同仕入れも実施している。(名)新里酒造は、1846年創業の最も古い歴史を誇る酒造所である。モロミの低温発酵で旨みを引き出すと共に、単式蒸留と低温蒸留をブレンドすることによって新里酒造ならではの味を造り出している。(有)金武酒造は、泡盛43度の一升瓶を鍾乳洞で5年と12年の契約貯蔵を行っている。鍾乳洞は、年間通して気温が安定しており古酒を育てる環境としては最適である。購入者の夢と願いをこめて鍾乳洞で味をはぐくむ。現在、10,000本の一升瓶が貯蔵されている。
 それぞれの蔵元が、それぞれの個性を生み出す泡盛造りを行っている。それはブームに踊らされたものではなく、蔵元の信念、伝統に基づき育まれてきたものである。蔵元の志、沖縄の泡盛文化を伝えるものである。

5.泡盛というブランドを高めるために
 それぞれの蔵元が、それぞれのブランドを高めていく努力をしているわけであるが、泡盛全体のブランドをもっと高めていくためにはどんなことが必要なのだろうか。以下の三つの要素が考えられる。
 〈1〉顧客の信頼
 〈2〉差別化できる付加価値
 〈3〉顧客にどう伝えるか
 それぞれについて考察したい。
〈1〉顧客の信頼
 顧客の信頼を地道に築いていくことが必要である。まず、現在の泡盛の製法をきっちりと守り、より品質の高い商品作りを進めて行く姿勢を堅持していくことが基本であろう。それを業界全体で進めていく。業界内の足の引っ張り合いで、マイナスのメッセージを発信しないことが重要である。適正な価格が維持されるということも重要な要素である。安売りされないと同時に高額な価格で売られることもない。販売先としてどのようなチャネル、企業と連携していくのか。県外のチャネル戦略の重要性は今後益々高くなるであろう。
 手造り感と同時に品質管理体制をきっちりと整えていくことも重要である。蔵元の場合、アルコール類を扱っているためか、食品の製造業者と比較すると品質管理の概念が遅れていることは否定できない。
 環境問題では、廃棄物を出さないという問題があるが、泡盛の副産物であるもろみ酢が健康食品として需要を拡大している。この点は、収益性に貢献しているだけでなく、泡盛という商品の信頼性向上にも大きく寄与している。
 理念、品質、価格、社会性で顧客の信頼を得る、顧客を裏切らないことが重要である。
〈2〉差別化できる付加価値
 ブランドを高める上で、他の酒類と他の本格焼酎と差別化できる付加価値を加えることも重要な要素である。泡盛の古酒(クース)文化は、まさに他と差別化できる重要な付加価値である。世の中では、スローフードが注目されている。時間の経過によって熟成が進んでいく、時間そのものの価値は魅力的である。古酒としての付加価値を明確化するために、沖縄県酒造組合連合会で「泡盛品質表示の自主基準」を制定し、古酒の表示基準を明確化したことは、すばらしい前進である。これによって、古酒に年数表示す場合は、全量が当該表示年数以上貯蔵したもの、または、それを混和したものに限るということになった。古酒の品質向上を促すと共に顧客の信頼を獲得することに繋がる。古酒としての付加価値を高めていくことがブランド力向上に繋がっていくであろう。甕で貯蔵したり、鍾乳洞内で貯蔵したりと貯蔵方法によって価値を更に加えていくことが出来る。
 また、沖縄の家庭では親の代からの古酒(クース)が甕で貯蔵されているところが多い。飲んで減った分を次に古い甕から補充するという「仕次ぎ」という貯蔵方法が取られている。このような家庭にも浸透した泡盛の古酒(クース)文化を、県外の泡盛のファンに伝えることが出来れば大きな付加価値となるであろう。
〈3〉顧客にどう伝えるか
 顧客への信頼性、差別化できる付加価値を顧客にどう伝えるかも重要なブランドを高める要素である。出来るだけ多くの人に泡盛の良さを伝えるというよりも、泡盛に興味を持っている人により詳しい情報を提供するという方法が効果的であろう。泡盛の熱心なファン作りを進め、そのファンを通した口コミで支持者を拡大していく方法である。現在も実施されているであろうが、酒造組合連合会等で泡盛の利酒会などのイベントを地道に展開し、泡盛の文化を泡盛ファンに確実に伝えていくことが効果的である。今後、泡盛を中心に販売する酒専門店の開拓を進めることも重要である。彼らは泡盛の文化を伝えるオピニオンリーダーである。酒専門店との繋がりが強くなってくると、そこと連携したイベントの開催も必要であろう。情報誌、出版物、ホームページ等での情報発信も重要である。そのようなイベント、出版物等で泡盛の魅力を語る語り部の存在があれば、より効果は増す。そんな語り部を育成することも必要であろう。
 飲み方の提案はきっちりとしていく必要がある。泡盛は古酒から一般酒まで、アルコール度数も様々で、それぞれの商品にあった飲み方を提案すべきであろう。泡盛の様々な飲み方を否定する提案ではなく、この飲み方が一番あっているという提案である。そんな飲み方を沖縄料理店で発信してもらいたい。
 泡盛ファンをじっくりと地道に増やしていくブランド・コミュニケーションが必要であろう。
 顧客の信頼を勝ち取り、商品としての付加価値を高め、地道な顧客とのコミュニケーションを続ける姿勢がブランドを高める結果に繋がっていく。

中小企業診断士 田中 一次


甕による仕込み

 


鍾乳洞での貯蔵