「“ロハス”で泡盛人気を読み解く」

 “朝は東に向かって合掌し、夕べは西を仰いで黙祷する。昼はゆっくり働いて、夜はのんびり島酒を。”

 今回の泡盛蔵元視察ツアーで訪問した瑞泉酒造(株)に掲げられていた詩である。究極のスローライフの地、沖縄の「ゆとりの文化」を表現した詩に感心し、思わずシャッターを押していた。近年、沖縄ブームと言われ、沖縄への移住者が後を絶たない。変化のスピードが激しく、ストレスの多い都市生活者が、慌しい日常を見直して精神的に豊かな生活を送ろうとすることが動機のようだ。健康、長寿、スローフード。そんな沖縄の地域イメージが、沖縄の地酒「泡盛」とオーバーラップする。本稿では、現在ブームともいえる泡盛を、話題の「ロハス」という生活者トレンドと関連付け考察してみたい。そして広く酒類業者を対象に、ロハスというキーワードを捉えたマーケティングの捉え方を提言したい。

■時代を捉えたキーワード「ロハス
 そもそもロハスとは何か。“LOHAS=Lifestyles of Health and Sustainability”の頭文字をとった略語である。その一般的な意味は、「地球環境保護と人間の健康を最優先し、持続可能な社会の在り方を志向するライフスタイル」の総称。アメリカの社会学者ポール・レイらが1998年に全米15万人を対象とした価値観調査から生まれた言葉である。その背景には、先進国の大量生産、大量消費による物質的な豊かさが、一方では環境汚染や地球温暖化などの環境問題を発生させていることがある。しかし、過去の環境保護や自然回帰の活動は、無理や我慢ばかりが強調されて、健康も、エコロジーも、幸福感も長続きしなかった。そこで、自分達の幸せの向こうに、社会の幸せや地球環境への貢献が地続きで繋がっているという考え方を持つことで、より現実的で能動的な価値観が誕生した。こうした、地球環境や人間関係、社会正義、自己啓発に関心を持つ新しい価値観の生活者は、米国では、5000万人以上、その60%が女性、市場規模は30兆円と言われる。日本では、ロハス的ライフスタイルを提案する雑誌「ソトコト」創刊やロハス・レストランなどもオープンし、徐々に浸透を見せている。一般企業社会でも、CSR(企業の社会的責任)が求められる時代背景の中、単なる表層的なファッションではなく、生活者文化として定着する可能性が高い。

■ロハス的ライフスタイルとは
 では、ロハスのライフスタイルとは何か、5つあるが述べてみたい。

  1. 持続可能な経済の実現に関心がある。:人にも環境にも優しい経済システムをつくることに関心がある。再生エネルギー・代替エネルギー、省エネ商品、グリーンな都市計画・交通手段など。
  2. ヘルシーな食品、ナチュラル素材の商品を愛用している。:オーガニック&自然食品、サプリメント、家庭菜園、ナチュラルなパーソナルケア商品など。
  3. 予防医学・代替医療を心掛け、薬に依存しない。:包括的な疾病予防、自然治療、はり治療など。
  4. 自己啓発のための投資をする。:ヨガ、フィットネス、呼吸法、能力開発や精神性向上のためのセミナー、異文化との触れ合い、友人・知人との交流などに投資する。
  5. 環境に優しいライフスタイルを心掛けている。:環境に配慮した家やインテリア、家庭用品、エコツーリズムなど。

■ロハス的ライフスタイルにフィットしたスローフード「泡盛」
 以上のようなライフスタイルを持つとされるロハスであるが、泡盛人気と関連付けて考えてみたい。

〈1〉 持続可能な経済の実現に関心がある。
泡盛の副産物には、人気の健康飲料もろみ酢がある。さらに、その酢を抽出した後は、養豚の飼料に活用される。まさに、捨てるところがない。循環型社会の実現を、しっかりとした経済性の上で成立させている。すなわち、地球にも喜ばれ、生活者にも喜ばれ(豚にも喜ばれ)、地域にも喜ばれ、行政にも喜ばれている。その結果、蔵元の収益に貢献している。持続可能な経済とは、皆がWIN-WINの関係にある経済である
〈2〉 ヘルシーな食品、ナチュラル素材の商品を愛用している。
泡盛はインディカ米を原料とし、黒麹菌を使用して、100%米こうじだけで発酵させた蒸留酒である。伝統的な単式蒸留を行うことにより、泡盛麹と酵母が作り出す香りを引き出している。3年以上貯蔵したものを古酒(クース)と呼び、年月の経過とともに熟成が進み、香味が良くなる。したがって、泡盛は、大量生産の工業製品ではなく、歴史や伝統、地域に根差したスローフードといえる。また、沖縄の地の食材の、ゴーヤーやラフティ、海ブドウなどにもピッタリである。
〈3〉 予防医学・代替医療を心掛け、薬に依存しない。
泡盛は「血栓溶解酵素(血のかたまりを溶かす酵素)」が豊富に(ワインの約1.5倍)含まれており、動脈硬化や心筋梗塞の予防に効果を発揮するといわれている。長寿の地、沖縄が生んだ地酒「泡盛」は、適量を楽しめば疾病予防の効果がある。
〈4〉 自己啓発のための投資をする。
本土から見ると、琉球文化との触れ合いは楽しい。昔は琉球王国と言う独立国家であった。エイサーなどの民俗や魔除けシーサーのある民家、破風型や亀甲型のどこか中国風の墓など、文化の違いを感じることが出来る。とりわけ、沖縄独特の時間感覚「ウチナータイム」が「ゆとりの文化」といわれる所以だろう。
〈5〉 環境に優しいライフスタイルを心掛けている。
琉球ガラスは、戦後アメリカ軍施設から排出されたコーラやビールの廃瓶を活用し、新しいデザインが映える工芸として定着している。泡盛の容器の中にも、色鮮やかな琉球ガラスを使用したものがある。また、記念日用の貯蔵甕を窯で焼いている蔵元があった。泡盛が呼吸できるようにするため、上薬をかけない荒焼の甕である。このような容器は、決して廃棄されることなく、2次利用・3次利用されるはずである。

■泡盛人気の行く末は
 このように泡盛は、ロハスという切り口で見た場合、人気が出るべくして出たといえる。まさにロハス的ライフスタイルにフィットしている。特に、前述のライフスタイルでは、〈2〉ヘルシーな食品・ナチュラル素材の商品の愛用、〈3〉予防医学への関心が、後押ししているといえるだろう。
 しかし、こうした側面は、本格焼酎にも共通している。本格焼酎のブームが沈静化を見せている中、泡盛は如何にして定着を図るべきか。やはり、造り手の顔をもっと見せるべきだろう。今回の蔵元視察ツアーでも、蔵元は皆、個性的であった。それぞれの酒造りにかける思いや志を、具体的な取り組みを通して語ることである。ロハスのライフスタイルの5つの切り口から語ることができれば、今の生活者の共感を呼ぶことができる。また、泡盛は独特の臭いやアルコール度数の高い酒のイメージも強いので、水割り、お湯割り、カクテルといった飲み方や、ヘルシーな食との相性で更なる健康イメージを訴求すべきだろう。やはり、ロハス的ライフスタイルは、女性が中心である。
こうしたロハス的なライフスタイルを思わせる蔵元が、今回視察した蔵元の中にもあった。(有)金武酒造である。自然食を中心メニューに据えたレストランを経営し、古酒を貯蔵する鍾乳洞の洞窟の見学ツアーの中でその洞窟の歴史を語り、顧客の夢が詰まった泡盛を鍾乳洞の貯蔵庫で熟成させる。酒造りという枠を超えて、いわば“物語創造企業”といえる。5年間、12年間と依頼主の泡盛を熟成させることで、依頼主の「子供の成長を思う願い」や「沖縄に再び旅行しようという思い」を預っている。

■これからの酒類業者の在り方
 以上のように、ロハスの切り口で泡盛人気を考えてみた。しかし、このロハスというライフスタイルは、他の酒類業者も捉えていく必要がある。時代は「量から質へ」動いている。豊かさの基準も、モノからココロの豊かさへ変化している。豊かさはお金だけで得られるものではなく、自分の暮らしが健康的であると同時に、暮らしを取り巻く自然環境の健康も不可欠である。自然環境や地球環境の不健康は、やがて生活者自身に戻ってくる。持続可能な社会とは、このような自然環境との調和と、経済的融合を両立させる社会である。
こうした観点に立てば、小売店は量販店ではなく、“質販店”を目指すべきであり、顧客に提案や仕掛けを図ることができるはずである。清酒製造業も、ロハス的な切り口で、もっと訴求できる要素があるだろう。ファッションではなく、文化として、新しい価値を発信していただきたい。

中小企業診断士 豊田 信


瑞泉酒造に
あった詩

 


琉球ガラスを
使った容器

 


記念日用の甕

 


地の食材を使用した
自然食